(あらすじ)

   はがき

          南城 めぐみ

 小橋川薫は、物心ついた時から母はいなか
った。父と二人きりだった。母は病気で死ん
だと聞かされていたが、小学三年生の時、突
然会いに来た母に戸惑う。何も言ってくれな
い父に反発し、孤独な少年時代を過ごすも、
近所の金城家は心の支えになり、洋子からの
はがきは宝物だった。
 ある日、良子叔母さんの次女の結婚式があ
り、薫は披露宴会場で久しぶりに父と横に並
んで座った。それから一ヶ月も経たないうち
に父に胃がんが見つかった。すぐに摘出手術
が行われたが・・・
 その頃、四十歳に手が届こうとしていた薫
は、愛子と知り合い結婚した。息子を授かる
事により、平穏な温かい家庭の中で、息子と
一緒に少しづつ成長していくのだった。
 がんが再発し、余命三ヶ月と宣告された父
は告知を受け、ホスピスに転院した。死に向
かう父と、これから成長していく息子の狭間
で、薫は色々と想う事があった。
父から形見にともらったアルバムは初めて
見るものだった。表紙をめくると、父と並ん
だ幸せそうな美しい母が写っていた。そして
家族写真にはやさしい笑顔の母、ちょっと得
意げな若い父、まんまる顔の純粋無垢な表情
の幼い薫が写っていた。そこには紛れもない
家庭を営んだ家族の顔があった。両親に愛さ
れた薫がいた。母に愛された薫はここにいた
のだ。
 父に反抗することでしか自分を立て直すこ
とができなかった薫は、反省を込めはがきに
父への思いをしたためる



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